昔々、エラという名前の、それはたいへん美しく、心のとても優しい娘がいました。
エラがまだ小さい時にお母さんは亡くなり、お父さんは新しいお母さんと再婚しました。
しかし、家にやってきた新しいお母さんと2人の義理のお姉さんたちは、エラにはとても意地悪で、エラのその美しさを大変妬んでいました。
新しい服も与えてもらえず、掃除、洗濯、皿洗いなどは、すべてエラ一人に、朝早くから夜遅くまでやらせていました。
新しいお母さんや義理の姉たちは、エラの事を馬鹿にして、あだ名をつけていつもこう呼んでいました。汚い灰だらけの娘エラの意味を込めて、「シンデレラ」と。
【解説】灰の事をCinderと言います。名前のエラは、Ella。すなわち、Cinder+Ella = Cinderella(シンデレラ) なのです。
ある時、この国の王子様が舞踏会を開く事になり、2人の義理のお姉さんはこの日のための新しいドレスを着てお城へ出かけて行きました。
エラも大変行きたくて、大切にしていた亡くなった母の形見のドレスを着たのですが、意地悪な新しいお母さんが、エラを舞踏会に行かせないように、大切なドレスを破ってしまったのです。
他にはお姉さんのおさがりのボロボロの古着ばかりで、もちろんドレスなどはありません。
エラは、夜まで一人で泣いていました。
そして、エラは、泣きながら星に願い事をひとつしました。
「わたしも舞踏会に行ってみたいわ!」
すると、突然、エラの目の前に、杖を持った魔法使いが現れたのです。
「泣くのはおやめ、かわいそうなエラ。私が舞踏会へ行けるようにしてあげるわ」
エラのいつもの心の優しさが、魔法使いを呼んだのです。
「本当? でも、1着しかない破れたドレスではきっと舞踏会には入れてもらえないわ・・・」 エラの涙は止まりません。
しかし、魔法使いが魔法の杖をエラの目の前で振ると、あっという間に、着ていた破れた大切な母の形見のドレスは、新品のすばらしい素敵なドレスに変ったのです!
魔法使いは、続けてこう言います。
「エラ、裏の畑から大きなカボチャを一つ取って来て。時間がないわ。」
エラは、すぐに畑からカボチャを取って来て魔法使いに渡しました。魔法使いがそのカボチャを杖で軽く叩くと、カボチャはどんどん大きくなり、あっという間に、りっぱな馬車になりました。
「まあ、立派な馬車。なんてステキ!」
「まだまだ、これからよ。そうそう、ここにはいつもあなたと仲のいいネズミがいたわよね」
魔法使いは振り向いて、小さなネズミたちに向かって魔法の杖を振ると、ネズミたちはみるみるうちに、立派な白馬になりました。すると、今度はそれを見たガチョウが寄って来ました。
「あなたには・・・」
魔法使いは、今度は少しだけ考えて杖を振りました。そうすると、ガチョウは馬車の運転手(御者)に早変わりしたのです。
「エラ、次はトカゲを連れてきて」
「はい! すぐに」
エラが協力を頼んで集まったトカゲは、今度は魔法の杖で召使いに変身しました。
変身した動物たちは、いつも世話を見てくれている大好きなエラの役に立てるとあって大喜びです。
「素敵なドレスに、馬車。白い馬に、運転手、そして召使い。エラ、今夜のあなたは灰だらけのエラではなく、お姫様のシンデレラよ! シンデレラ姫! さあ、舞踏会に行く準備が出来たわよ! 最後に、このガラスの靴を・・・。」
そういって魔法使いは、シンデレラ姫に素敵なガラスの靴を渡しました。
きらめくガラスの靴、シンデレラ姫は素敵な笑顔で、やさしい魔法使いに心から感謝しました。
魔法使いは、シンデレラ姫になったエラを見送りながら、1つだけ大切な忠告をしました 。
「夜の12時になると、馬車もドレスも、すべての魔法が解けて元の姿に戻ってしまうから、必ず12時までに帰りなさい。」
「約束します。必ず12時までには帰ります。」
シンデレラ姫はそう約束して、渡された素敵なガラスの靴を履いて、大喜びで馬車に乗り、急いでお城の舞踏会へと出かけて行きました。
「あのあまりに美しい女性は、どこかの国のお姫様だろうか?」舞踏会に着いたそれは美しいシンデレラ姫は、すぐにみんなの注目の的です。
義理のお姉さんたちは、まさかそれがエラであるとは全く気付きません。
「お嬢様、よろしければ、是非私と一緒に踊っていただけませんか?」
「喜んでお受けいたします。王子様」
シンデレラ姫は、王子様と夢のような時間を過ごしているうちに時の経つのも忘れてしまい、気がつくと、時計はもうすぐ夜の12時です。
「まあ大変! もうすぐ約束の12時だわ。急いで帰らなくては!」
魔法使いとの大切な約束を思い出したシンデレラ姫は、急に何も言わず振り返ると、馬車の待つお城の出口へと続く階段を急いで駆け降りて行きました。
シンデレラ姫がどこの誰かも名前も聞いていなかった王子様は呼び止めようとしたのですが、シンデレラ姫はあっという間にお城の外へ消えて行ってしまいました。
シンデレラ姫が走り去った階段には、美しい小さなガラスの靴が、片方だけ落ちていました。
さて、舞踏会も終わり数日が過ぎたのですが・・・
王子様は、舞踏会で一緒に踊ったあの美しい女性のことがどうしても忘れられません。
そして、ガラスの靴が合う女性を必ず探し出して、すぐにお城へお連れするように、使いの者に命令を出しました。
「王子様が、ガラスの靴が合う娘を探している」という噂話しはすぐに広まり、使いの者は国中を駆け回り、若い娘たちは皆次々にガラスの靴を試してみました。
しかし、そのガラスの靴を履ける女性は、国中どこを探しても一人も見つかりません。
王子様の使いの者たちは、国中を探し回って疲れ果てた頃になって、エラが住む村にもやってきました。
大喜びの義理のお姉さんたちは、何とかしてガラスの靴を履こうと何度も試してみましたが、どうしても履くことはできません。
そこへ、ボロボロの服を着て裸足のエラが勇気を出して少し前に進み出て、使いの者に向かって小さな声で一言だけお願いをしました。
「どうかお願いです。私にも靴を試させてください」
と頼んだのです。
「あなたは、何をバカな事を言っているの! あなたには試す価値などないわ!」
意地悪な義理のお姉さんたちは、王子様の使いに対してエラが頼み事をしたことに、身の程知らずの無礼者だと怒って叫びました。
しかし、念のためにと使いの者の一人がエラにも履かせてみると、なんと、ガラスの靴はまるでシンデレラ姫のために造られたかのように、ピッタリだったのです。
「この娘が、王子様の探しておられた女性に違いない!」
と、使いの者たち全員は大変喜んで、ボロボロの服を着たままのシンデレラ姫を、馬車に乗せてすぐに、王子様の待つお城へ案内しました。
それから間もなくして、シンデレラ姫は王子さまと結婚して、仲良しの動物たちも一緒に、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました。